霧と森と残骸(抄)#1 イリュノー

昔、男と言う名の森がありました。世界の始まりから終わりまで、森には誰もいませんでした。淡い光は戯れ、ゆっくりと、森を包み、霧は静かに揺れていました。とても気持ちの良い昼下がりでした。

突然、世界は砕けました。膨らみすぎた自分の体に堪えきれずに、最後に、「さよなら」と、すまなそうにいました。


森へいたる、イラクサの道が、男の子を連れてきました。彼は、 道で作った冠をかぶって、森の入り口に、ぽつんと、立っていました。風が吹き、森の枝が揺れました。そうすると、男の子が応えました。「世界が終わりを告げました。僕は、始まりの言葉を探しに、ここまで来ました。」

風が止み、森の葉が 1枚落ちました。男の子は、しゃがんで、その葉を拾い、大事にポケットにしまいました。「僕に、あなたの話を、聞かせてください。」

薄い闇が、葉を濡らしはじめ、森は息を潜めています。いちにちが終わろうとしています。