霧と森と残骸(抄)#2 イリュノー

霞んだ空気と、薄暗い光の中で、男の子は目覚めました。あたりでは、何ひとつ身動きをせず、音はその力を、失っていました。

男の子は、森の中に入りました。森の中では、ひんやりとした静けさが、森の時間を、ゆっくりと動かしています。幾重にも織り成す枝や葉が、生命をひろげ、時を満たしています。次第に、男の子は森に、森は男の子に織り込まれてゆきます。

 整然とならんだ、背の高い針葉樹の森につきました。大地には、葉の絨毯がしきつめられ、今もその葉、を降らせています。しかし、この森は病んでいました。葉が彼らを苦しめています。

目の前にひと際は大きい、一本の老樹がありました。男の子は彼の言葉を拾いました。

「私たちは、長い間、細い糸を、紡いできました。そして、いくつもの、生命が、それらを、体に、取り込み、次の者に、伝えました。紡がれた、糸は、縦と、横に、織られ、世界に、模様が、できました。私たちから、溢れ出た、生命は、糧となり、生きて、いきます。……………私たち………長いあい………細い…………糸を、紡むい………… 」


  男の子は老樹から降ってくる「コトバ」を集め、新しい場所に蒔きました。