霧と森と残骸(抄)#3イリュノー

男の子はさ迷いました。深い森の中で、ひかりは届きませんでした。あらゆるものに声をかけましたが、誰も応えてくれませんでした。どこからか、水の音が聞こえてきます。とても悲しい音でした。谷の間から細く流れる水に根をおろし、水の精の樹がありました…

霧と森と残骸(抄)#2 イリュノー

霞んだ空気と、薄暗い光の中で、男の子は目覚めました。あたりでは、何ひとつ身動きをせず、音はその力を、失っていました。男の子は、森の中に入りました。森の中では、ひんやりとした静けさが、森の時間を、ゆっくりと動かしています。幾重にも織り成す枝…

霧と森と残骸(抄)#1 イリュノー

昔、男と言う名の森がありました。世界の始まりから終わりまで、森には誰もいませんでした。淡い光は戯れ、ゆっくりと、森を包み、霧は静かに揺れていました。とても気持ちの良い昼下がりでした。突然、世界は砕けました。膨らみすぎた自分の体に堪えきれず…

霧と森と残骸(抄)1

そこにある光の束がまるで生き物のようにうごめく。水面に浮かぶ君の亡骸。その黒髪の漂いに、ひとつの可能性がからみつく。なかば生まれかけた存在が声を殺してしゃくりあげる。丘の上のものが、光の束をほどく。爛れた光は男の足元にこぼれる。かすんだ暗…

霧と森と残骸